予約しろよ!いいなっ!

…おいノビ太!わかってんだろうなぁ!みんなに言っておけよ!今度のリサイタルは予約制なんだぞ。いいか、蛯原硝の歌を聴きたいヤツは必ずアルカフェに直接予約するんだ。みんなに言わなかったらギッタギタにしちゃうぞぉ!!………電話番号を言うぞ!
03‥3391‥2046だ!メールは:alcafe@incoming.jpだぞ!いいなっ!………

ジャイアニズムというのはこういうものです。恐ろしいです。しかしリサイタルの日が近づくにつれナゼかジャイアンみたいな気持ちになってきました。用意が万全なら万全で客の入りが気になり出します。来ないとブッ飛ばす!その気持ち少し解ります!
 教養ある諸兄ならビンと来るかと思いますが、ドラえもんジャイアン・リサイタルのシチュエーションには日本文学的な原点があります。それは言うまでもなく古典落語の「寝床」です。改めてそのシチュエーションを確認します。義太夫を語る=歌うのが大好きな大旦那様が時々店の従業員とか取引先の人間を大座敷に集めては義太夫を語るのですが…それがまたヘタとか上手いとかいうレベルではない、もう歌とも呼べないシロモノで、もはや声ではなく巨大な騒音!ぼえ〜…ほげ〜…!それが延々と続くという阿鼻叫喚な地獄絵図が展開します。たとえ豪華なディナーが付いていてもこんなリサイタル、誰だって見たくないのです。それであの人もこの人も色々用事を捏造したり言い訳をしたりで観覧ご辞退を申し出るのですが、気分を損ねた大旦那は、従業員にはリストラ、取引先には取引停止を申し付けようとします。これは何というか、もう絵に描いたようなパワハラ!しかし、そこまで強気に出る大旦那でもこの現実にはショックを受け、絶望のあまりスネて寝込んでしまいます。ここからが日本的な感じなんですが、結局みんな仕方なしにリサイタルを聴きに出て
きます。もちろんリサイタルの
あ客はほぼ軟禁状態で拷問を受けるという景色になります。ぼえ〜…ほげ〜のなかで全員七転八倒です。
 脅迫の末に監禁され殺人音波に晒されるお客の苦痛は当然ですが確かにこのお江戸のジャイアニストの気持ちが今は原理的にはよく理解できます。その心の片隅には言い知れぬ不安感があるのです。そしてこうした不安に取り憑かれたら最期、リサイタルを成功させるためには権力でも威力でも暴力でも場合によっては策略でさえ使いたくなってきます。それはお客の入りがそのまま自分の全人格に対する評価やら自分の社会的値段やらを反映しているような感覚になってしまうからです。例えばそれは、病気で入院した時にどれだけの人が自分のところに駆けつけてくれるか?だったり、会社を作ると言った時に何人が出資してくれるか?だったり、究極のケースとしては死んだとき誰が本気で死を悼んでくれるものか?だったり…。
 ジャイアニストにとって、そしてジャイアンその人にとってリサイタルとはまさにそういうものなのです。ただしお客の入りが悪いとき、落語「寝床」の大旦那が「解りましたよ。もういいです」とスネてしまうのに対してジャイアンの場合は「バカにしあがって!どうなるか解るよなっ!」と凶暴化するのですが…。人間できれはこの種の不安感には襲われたくありません。…しかしジャイアニストはその不安感を不安感として自覚しません。そもそもシチュエーションを把握していません。とにかくリサイタルを開きたくなるのがジャイアニストのジャイアニストたる宿命なんです。これぞジャイアン・コンプレックス!?
 さてパワハラなしのジャイアニズム・リサイタルですが、土曜日には何人が来てくれるでしょうか!場合によってはスネて野込むことになるかも知れません。パワハラはなくても、こっちの方は有り得ます。


[補足]:落語「寝床」にはもう一つのバージョンがあるようです。悪夢のようなその歌声に耐えかねて逃げ回る相手を、歌いながらどこまでも追いかけ回し、ついには土蔵の中に追いつめて失神するまで無理矢理に義太夫を聴かせる、、というものです。映画「13日の金曜日」や「死霊のはらわた」を越えたオゾマシサの溢れるホラー怖い展開です。