日蓮さまあ!(後編)、強硬路線!

後編: 日蓮教学の原点と思われる2つの疑問、つまり互いに矛盾する多数の真理の問題と、正しそうに見えるのに結果が出ない理論や技術の問題は、現代社会では主にエンジニアが日頃抱えている問題意識に似ているような気がするんです。特に仏教に限らなくても、この意識には重要に意味がありそうで、人間が依存せざるを得ないシステムや技術や行動パターンなどを扱う領域に広く適用可能なものに見えるんです。身の周りをざっと眺めれば、日蓮さまが指摘したように多くの人が効き目のないやり方をいつまでも繰り返しています。理論という面に限定しても確かに「結果を伴わない理論」や相矛盾する多数の説明原理の併存は山のようにみられます。なかには相当に手の込んだものもあります。。自分の理論が期待どおりの結果を出せないのを政治や景気や、中には悪魔その他の外的阻害因子のせいにしているものなどです。理論の正しさと無効性を同時に証明できるんですから阻害因子は便利な道具です。理論を組み立てるに当たっては、確かに阻害因子の特定や分析は必要です。しかし理論の究極的な目標は、何かに説明を与えることではなく、ある課題を解決に持っ
ていく道
筋を示す
ことではなかったかと思います。
 例えば頻繁にトラブルを起こす機械があった場合、究極的に必要なのはトラブルを起こす理由の精密な説明だけではなく、機械に期待された結果を正しく実現させる方法です。もっと身近な話でいえば説教なんかは効果を見たことがないのに今てもどこかで相も変わらず繰り返されています。結果を伴わない理論でも効果の出ないシステムやマニュアルでも、それらは現実との乖離を意味しており、分析を経て改良すべきです。しかし現状では、理由付け・理論化の段階で思考も行動もストップしてしまうという例が大多数です。しかも解決すべき課題は放置されたままですから、その理由付けの正否も検証されず仕舞いという景色になります。
 事実として多くの局面で問題提起や改善への提案は無視されがちです。日蓮さまもそうゆう現実を腰が抜けるほど思い知っていたに相違ありません。それで場合によっては脅しあり乱入あり拉致監禁ありの「折伏」という強硬手段も設定したワケなんでしょう。
 しかしその一方で日蓮さまは法華経の記述に従って別のスタンスも設定しています。例えば誰かが法華経の教えに接することで逆に法華経を嫌悪する結果になっても、それによって意識に法華経が刻み込まれたことになり、これが後に法華経との縁になるという、いわゆる「下種脱益の衆生」への配慮です。「君だったら必ず理解してくれるさ!」。これは相手を最後の最後まで信じるからこそ可能なことです。
 さすが日蓮さまは方便の問題を扱った法華経の熱烈な行者、そこんとこは抜かりがありませんです。日蓮さまは折伏も基本的には方便=手段であり、その向こう側にある究極の目的を正しく見据えていたと言えます。日蓮さまの物凄さ、恐ろしさ、偉大さを痛感します。
 法華経には説得法についての豊富な記述がありますが、その内容の2つの頂点は「常不軽菩薩品」と「安楽行品」の二ヶ所に集約できると言われます。言わば「強硬路線」と「ソフト路線」です。別の表現にすれば、「告発型」と「解決型」とも言えそうです。もちろん日蓮さまは当時の日本が置かれた危機的状況を前にして「常不軽菩薩品」の告発型の強硬路線を前面に出したわけですが、歴代の日蓮門下の行動のなかでは、こうした強硬路線だけが話題となることが多く残念です。日蓮正宗開祖の日興上人や不受不摂派の僧侶たち、鍋かぶり日親、あるいは戦前の日蓮主義者たちなどの活動は、信者の皆さんには勇気と使命感を与えてくれるかも知れませんが、見ている素人の目には異様さばかりが映ってしまうんです。
 日蓮門下にはこうした過激派ばかりでなく、一方に加藤清正公や勝海舟、そして近代では宮沢賢治らに代表されるような問題解決型の現実路線を歩む人もいたわけです。[彼らが選んだのは第三の道だと言えそうです。つまり法華経の教えを生き方を通じて積極的に展開していくという道です。]このタイプの人たちの特徴は表面的な現象に毎回対応するより、原因の解明と、問題の根本的な解決を重んじたことだったと感じます。
 そうゆうことで日蓮さまの思想は、簡単に無視してはいられません。少なくとも日蓮さまが青年時代に抱いた疑問は、全ての人が自分自身に向けるべきギモンです。真言宗は、どうでしょうか?ZENは?浄土は?医療制度は?そして自分自身の取り組んでいる今の課題は?小生も皆様も同じようなもの、人間ついつい無意味なゲームを繰り返してしまいます。自分が信じた方法なら、結果の出る方向に改造してやれなければ結果的に全てがウソになります。
 日蓮さまは今後も深く深く理解していきたいボーズです。


[補足]:皮肉な話ですが、日蓮門下の宗派間の分派・分裂が意外と多いんです。