密室で解体ショー

anesti2013-07-10

つらいのは晩年だけのキリギリス/おめおめと鳴き続けますホトトギス/人間も鈍感だぜとホトトギス

 マットレスの内部構造を見てきました。なんでそんなもん見にいってきたのかというと、実はある事情からベッドや高級マットレスを解体するという依頼を受けたからなのです。依頼者は老齢の女性で、事情というのはご長男一人での片付け作業の負担を軽減してやりたいということでした。現場のお家にいってみると近来よく見られる典型的な鉄筋コンクリート二階建ての、いわゆる二世帯住宅で、内部はこうした住宅ではお定まりの暗くて狭苦しい感じの住空間となっていました。お邪魔したとき通された部屋は片付けの最中にしてはスッキリしていましたが、さて長年物置部屋のようになっていた問題の一室はというと…文字通りのゴミ屋敷に限りなく近い景色なのでした。すでにご長男らによって大方の「荷物」は搬出されていましたが、それでも室内が乱雑を極めていることからは、(依頼者には誠に申し訳ないのですが)その「片付け」の作業がイカにもモノに対する愛しちの念もなく、作業における計画観念も見事に欠如した素人の雑な仕業だと見て取れました。室内全域に無秩序にモノが積み上げられたままになっていて、障害物があらゆる箇所に立ちはだかる
のでした。こんな状態のなかでの「
片付け」はさぞかし非効率で苦労ばかりが多かったものと推察できます。解体作業に先立って、とにかく足の踏み場もないその部屋に足の踏み場を数ヶ所作りました。続いて通路と作業空間を確保するために散乱したガレキの如き品物の数々を分類、整頓、再配置しました。ここまでの過程はORの実地訓練で身に付いた勘をたよりに支障なく短時間のうちに完了させました。そしていよいよマットレス二つの解体作業に入りました。大きな裁ち鋏を手に作業に臨んだ小生は何やら手術を前にした天才外科医みたいなヘンな高揚感に包まれていました。まず最初に比較的小型のものから手を着けました。実際に裁ち鋏をいれると小生は外科医というより宇宙人の解剖でも始める気分になってきました。さあて何が出てくるか?!表面クロスを旅行鞄の開口部みたいにコの字に開くとその下は、柔らかそうなウレタンでした。ウレタンを剥がすとゴムと思われる少し弾力のある層が出てきました。マットレスは、この表面の部材が無数のバネを収めた鋼鉄のフレームをサンドイッチする構造になっていて、ウレタンとゴムはフレームの周囲を包み込むように巻き込まれた状態で固定されています
。といます。表面のクロスにしても内部のウレタンにしても四つの角では深く織り込まれて厳重に縫
い付けられていました。また両側面にも二ヶ所そうゆう場所がありました。これは比較的ラクチンに解体できました。次に大きめの高級マットレスの解体です。さっきと同様の過程で作業しましたが、これは少々苦労しました。しかし同時に感動の体験となりました。今回作業を通じて高級品には高級品である理由や根拠があることを体で確認しました。まず作業の便宜上マットレスの上に乗ります。そのときの安定感は明らかにさっきとは異なっていて、もう心地よいのです。表面クロスも丈夫でしかも二枚張りになっています。うすいウレタン層の下には丁寧に伸ばされた本物の綿が二層も張られています。さらにその下には畳表かゴザのように美しく編まれたシュロの繊維の層が控えていました。この高級マットレスは構造的には最初に解体したものと同じ構造なんですが、クロス、ウレタン、綿、シュロの繊維という素材で構成された部材にはユーザへの行き届いた配慮と、それを実現させるための本気の仕事が刻み込まれていました。深部のバネ入りフレームにしても、重みの偏りによる変形をなくすために表面に近い天地面には升目の大きさが異なる二種類の金網が少しズレた形
で二重に張られています。高級品に込められた工夫と魂が伝わります。それにしても綿やシュロの繊維には人間的な温かみが感じられます。こうゆうマットレスの部材の全てが手作りで出来るとは思いませんが。やはり感じるのは人間味の風情です。高級マットレスの解体ショーを見ていた依頼者は、小生の見事な仕事よりもマットレスのクロスの下に隠された工夫や技術、そしてユーザへの心遣いに感心しきりでした。「やっぱり高級品は高級品なんだねえ。手が込んでるねえ」。解ります!その気持ち。作業終了後も剥がされたシュロの繊維の、ナゼかノスタルジックな編み目を小生も見つめていたんです。ああ諸行無常…この丁寧な仕事は近々ゴミとして処理されるのです。
 きっと次の休日にこれを搬出するご長男にはモノのもつ独特の体温を感じる余裕などないような気がします。おそらくその目に映るのはただの厄介な粗大ゴミのモトなのでしょう。
 翌日はベッドの解体となりましたが、これは手強すぎて、課題には果敢に挑みたい小生ですが、時間の制約や技術上の