徹底的に利害を追求する孟子

宮殿の書物蔵の奥で孟子のコンパクトな本文を見つけた。やはり儒学孟子に始まり孟子で極められる。朱子学を中心にした儒学の世界に迷い込んでみたら実は儒学が徹底的に生身の人間のリアル利害を追求する思想なんだと思えてきた。少なくとも宋代のオリジナルな儒学には確かにキレイごとを挟み込む隙間なんぞ全くないとさえ言えるか。日本の武士道に絡む儒学の話は置いとくとして近世日本の儒学思想も実学を支えろベース的な存在で財政や産業や人材育成や科学技術などの研究と不可分な存在だった。そもそも孟子の思想そのものが徹底した実学を志向していた。もちろん孟子が大切にしているのは仁義だが仁義と利が相反する価値だとする見方もあるが疑わしい。例えば恵王と孟子の会話。梁の恵王:汝の教えに従うと如何なる利益が得られるか。孟子:私が説くのは利でなく仁義でございます。 …こうした事情から孟子は利より仁義を重んじているとか思われがちだが実は孟子は仁義を利の正しい産み出し方や正しい用い方として説明している感じがする。まず孟子は王道と覇道との違いを論じる中で王の使命とは国の拡大などではなく民を利し安んじることだと明
言している。また農工商業は生産的な営みであるが戦争は民の生産した富を空費する営みであるという前提から戦争に否定的な態度を示している。こうゆうところからも儒学が徹底的に利害を追求している思想だということが窺えるんぢゃないか。それにしても孟子が冒頭から利より仁義だぁなんて言っちゃったばかりに後には利を嫌い仁義を尊ぶ妙な気風が醸成されてしまったか。まさに孟子読みの孟子知らず。