ベニハシガラス

anesti2013-02-10

あの国じゃあ窓でガラスがホーホケキョ
2月11日は紀元節です。今から2600年あまり昔、我が神武天皇がヤタガラスの案内で無事にヤマトの国に入られた記念日です。
 今日はヤタガラスではなくベニハシガラスのお噂を勝手に申し上げます。
 それが夏であろうと冬であろうと構いません。その国の首都の朝はロシア式集合住宅の窓辺で鳴くベニハシガラスの声で始まります。 ベッドのなかで聞くあの鳥の甲高い声、意識がまだボンヤリしているときなんか、「惜しい〜!惜しい〜!」と聞こえたりしました。昼間には鳴き方が「ホケキョ!」に変わります。ホケキョといってもウグイスみたいに優雅な声の伸びもなく、微妙な余韻もありません。何と言うか、苦し紛れに鳴いているような、無理やり声を出しているような特有のセセコマシイ声です。しかし、この全身真っ黒でクチバシが赤い鳥がアパートの上なんかに一羽だけ止まって一声「ホケキョ」とか鳴いてくれると、ナゼか心が和んでしまうのです。例えばそれは街のイタズラっ子みたいなモノです。ある意味でベニハシガラスは事実としてイタズラっ子です。なんたって飛びながら人間を狙ってフンを投下してきたりするのです。
この鳥はその国ではulaan khoshoot、つまりベニハシと呼ばれます。分類上も和名のとおりカラスの一種で、ユーラシア大陸の内陸部には広く分布しているようです。街の住民にはこの鳥を普通のカラスと全く区別しないという人も少なくありません。当地に滞在中には例の回頭見氏その他と共謀してこの鳥を捕獲してみようという悪の計画を立てました。まず手始めにヤツらの食べ物を特定することになりました。カラスだから雑食性のはずですが、肉を置いてみました。ベニハシガラスはナゼか興味を示しません。次は試しにパンを出して置いたらこれは大好物らしくガシンガシン食べてくれました。その他のエサも色々試してみましたが、結局大好物はパンということ結論でした。
捕獲は断念しましたが、ヤツらの好物が判っただけでも得したような気がするのでした。
ベニハシガラスについては当地の市民30人あまりに簡単なアンケートを取ったことがあります。遊びでやったので記録を保管していないのが今は悔しいです。その時の質問は「ベニハシガラスは良い感じの鳥ですか?」と「ベニハシガラスはカラスと同じ鳥ですか?」など数問でした。
記憶に従えば答えのなかで一番多かったのは「ベニハシガラスはカラスと同じで悪い鳥だ」というものでした。理由としては「あの鳥は死んだ動物の目を食べるから」というのが一番多い意見でした。確か4人はこの鳥が好きで理由は可愛いからでした。もちろんこの意見の人はベニハシガラスとカラスを区別していました。これらに加えてカラスに対して肯定的な意見を述べた人が一人だけいました。この人はこの「モの字」で始まる国の国立大学の国語科の教授で今は故人となった人です。この人の意見ではカラスは街のゴミを片付けてくれる良い鳥だということでした。なにしろ当時のその街ではゴミをアパートの窓から道路に直接捨てたりしていたのですから、これは面白い見方だと感じました。
ベニハシガラスはヤタガラスのように私たちを「約束の地」へは導いてくれそうもありません。ただ毎朝のように私たちを現実の世界に引きずり込むだけです。
 もうあの鳥の声を聞かなくなって10年もたったのですね。ゲロゲロ鳴くカラス、おそらくワタリガラスらしき鳥の声も懐かしいサウンド・スケープでした。夏の日の雨上がり、何ヵ月もの間カラカラに乾燥していた大地にできた水溜まりに突如として大発生するカブトエビに似た生き物も、開発が進んだその街で今もピチピチ泳いでいるのでしょうか。