京都エビ天事件

anesti2013-02-11

上方じゃ笑いを取るかホトトギス!!
今日は良い天気の暖かい紀元節になりました。めでたいエビのお噂です。二十歳前後は憑かれたようにやたらと京都に旅行していました。とくに何を見るというのでもなく、むしろ普通の生活空間に滑りこんで過ごすのが楽しかったのです。今でもあるでしょうか京都駅近くの丸福食堂…。あそこでカレーを注文すると一緒に喫茶店のテーブルに乗っているような感じの丸い陶器の入れ物に入った砂糖が出てきたのを覚えています。グリーンピース入りのカレーも忘れられません。数年前に所用で行ったときに今の様子を確かめなかったのは残念です。あのころ東本願寺前にあった餃子の王将は今でもそのままだそうです。
さてそんな時代に小生が必ずいった喫茶店があります。まさか三条のイノダ?そんなシャレた所は怖くていけませんでした。小生が行くのは京都タワー近く、つまり京都駅前にあった軽食も食えるような安っぽい店です。そこで天そばを食べるのがお決まりとなっていました。
どうして京都に行ったら必ずそうするのかというと、まず第一に安いことでした。京都到着早々安心してメシが食える場所があれば気楽になります。しかしその店を敢えて選ぶのはそれだけの理由ではありません。実は…その店の天そばに乗っているエビ天が、おそらくここにしかない珍品だからです。あまりの珍品なので人によってはその独自性に気づかないこともあります。小生は幸か不幸か一発で気づいたのですが、まあとにかく尋常ではない天そばだったのです。
当時ある友人が京都にいたので、到着した日に駅前で待ち合わせしました。彼はシャレが解る男でしたから早速例の店に行くことにしました。もちろん注文したのは例の天そばです。その独自性には自分で気づいてくれることを期待して特に事前の説明はしませんでした。
さて噂の天そばが出てきましたが、この友人は天ぷらは後から食べるとかで、お楽しみは少し後回しとなりました。いよいよエビ天となります。エビ天をかじります。エビには到達しません。再びかじります。エビは現れません。半分まで行っても事態は変わりません。こうして最後までエビは姿を見せなかったのでした。そう、今我々の目の前にあったエビ天らしき物体は、なんとエビ天のように細長い形状をした衣に精巧な技術によってエビのシッポを衣の末端に巧妙に装着した「なんちゃってエビ天」だったのです。最早これは食べ物というレベルを軽く超えた、ある種の工芸品の類いです。もしこの店に我らの大名古屋人が来たら、そして天そばを注文したら、想像するだけでも背筋に寒気が走ります。阿鼻叫喚!天地動乱!死屍累々!「このタワケぇ!おみゃあ勘弁せん!」
 「なんか変じゃないかい」ナゼかその友人、小生が訊いても首をひねるだけです。こうなるとエビ天より友人の方が遥かに不可解です。つい色々なことを考えてしまいました。例えば京都のエビ天はこういうものたのか、あるいは関西にはこんな露骨なインチキが普通に横行しているのか、もしかしたら実は物凄く柔らかいエビが入っていたというのか…。たまりかねて友人に種明かしをしたら、「ホンマや」と初めて気づいてビックリし直していました。ただ鈍感なだけだったワケです。しかしこの天然さこそ当時の彼の最大の長所だったのです。あの店、確かに京都タワーの前を少し西に行った角にあったのですが前回はその場所がどうしても見つかりませんでした。
もう京都へ出かけることもありません。その友人もシャレの解らない人間になりました。まあ友人には生きるために生きていてほしいです。ほんとうは昔の君が見ていたように、この世界は今でも面白いものだらけなんですよ。