食わせてやってよ!

anesti2013-04-09

ボクは幸せだなぁ!いつか言ってみたい言葉です。加山お地蔵こと加山雄三さんの「君といつまでも」のなかの台詞です。地井武男さん亡きあとテロ朝の散歩番組を受け継いだ加山さんですが、最近になって番組のカラーが俄然アート志向になってしまいました。「なってしまった」という言い方をするのは、もちろんそんな変化が小生のイデオロギーにとって受け入れがたいことだからです。あの番組、当初は加山さんの思いの向くままな感じで、ついつい食い物の方に吸い寄せられる加山さんには何とも言いがたい親しみを感じてしまうのでした(この「しまう」は「無意識的な行動」を表す表現です)。この人は良い人だと単純に感動しました。実は小生、基本的に加山さんは好きなゲーノー人じゃなかったんですが、この番組を見て、あの手を抜いたような歌い方まで好感をもって聴けるようになっていました。加山さんの醸し出すノンキで明るいアトモスフェールいっぱいの番組を「これじゃ散歩番組じゃあなくてグルメ番組だがねー」、なんて思いながら見るのでした。
 それか突如としてアートな傾向になったのは、間違いなく、加山さんと食い物との仲を引き裂こうとの何者かの策動に由来するものと推察できます。その背景には「食い物=不健康」という文化記号論的でイデオロギー的な社会イメージが見え隠れしているようです。健康志向な散歩番組に食い物三昧は、考えてみればミスマッチなのは確かです。
 このアート志向への流れの最初のキッカケとなったと思われる悪夢のようなアクシデント、いや事件!それは、あの茅ヶ崎散歩の際に出くわした親戚のオバサンの一言だったと疑っています。「あんた、食い物食ってばっかりいるんじゃないわよ!」…。
 その後の加山さんには次なる不幸が降りかかります。都内を散歩する加山さんにスレ違いざまに「案外と腹が出てんだねぇ 」というオバアサンの鋭くも心ない一言!無体だ!残酷だ!
 その後の番組のなかで端々に漏れる加山さんの小さな独り言には、それでも限りなく明るいキャラがギラギラ光っています。それにしても、こんな声まで放映する番組の優しくて人間らしいスタンスは粋な感じで大好きです。
 … 
 スタッフ全員に饅頭を振る舞ったとき:「オレ、このくらい一人で全部食えるなあ」
 クレープを買ったとき:「おお、美味い!二つは食いてえけどなあ。こうだから腹が出ちゃうんだよなあ」
 パン屋で:「食っていいなら全部(の種類)食えるなあ」
 牛テールを売っているお店に入るとき:「こりゃオレの好きな物知っててこっちへ行かせてくれたな!」
 そしてことあるごとに「また怒られちゃうなあ」
 言葉は正確ではありませんが、大体こんな感じです。
 食い物食ってる加山さんの幸せそうな表情は見ているだけで幸せになってきます。今まで好きな食い物を好きなときに作って食って、それであの元気さをキープしているのがリアルな加山さんなんです。社会的な記号として食い物がどんな意味をもっていようと加山さんの身に現に現れていることの方が確かな事実なんです。美術作品の制作を楽しみ、海を愛し、好きなだけ食い物食っている、それで健康ならそれでいいと思います。もっともらしい理論のなかにも都市伝説に等しい健康神話だってあるのです。やっぱり、理論は事実のみに基づいて構築されるべきでしょう

 女房の厳しい管理の下で酒を禁じられた男のストレス疲れした顔なんか見ると、無限の悲哀を感じます。人間の健康は人生のトータルな条件で作られるはずです。食い物は幸せの社会記号でもあります。食い物って幸せだなあ!ボクは食い物食ってるときが一番幸せなんだ…。
 「オレさぁ、朝にカツ丼食いたかったら朝からテメエで(な神奈川の方言で「自分で」のこと)作って食っちゃうんだよ!」(加山雄三)