秘伝の人!

anesti2013-08-07

鳴き方のツボは秘密だホトトギス


今月末の閉店がジワリジワリと近づいている例の古本屋さんには、このごろ連続で通いつめてお化け話の本を買い漁っております。小生の異常なまでの好奇心を飽きもせずガッチリ受け止めて頂きました。色んな愚問にも答えて頂き、そのついでに古今の珍談・奇談、怪事件、作家や俳優たちの仰天エピソードと他所では聞けそうもない話の数々を色々と教えてもらいました。しかし、そうした話のなかでも、これぞ他所では聞けない話というのがあります。それは古本屋さんしか知らない、業界の事情や常識のお話です。例えば「虫」…虫といっても本なんかの紙を食べる「シミ」とかいう虫のことではありません。虫とは古本の傷み方の一種で、ページを開くと紙全体に赤や紫の斑点のようなものができていることがありますが、どうやらあれが「虫」らしいです。これは本が日焼けした結果現れるものだそうですが、古本屋さんに西日に当たって背表紙が白く変色した本がありますが、実は本というのは内部まで日焼けするものとはこの話で初めて知りました。また古本屋さんの世界での「売れ筋」はマンガか推理辺りかと踏んでいたら、実は意外なことに宗教・哲学書だったり、というのもビックラこきました。プラトン関係が売れていくらしいのです。似たような話ですが、尖閣諸島やら慰安婦やらの問題が出てからというものお店にある中国関係の本が、ジャンルを問わずパタリと売れなくなってしまったとか…。中国をボロカスに批判した本も同様とのことで大衆心理の動きの不思議を感じました。そうゆう意外な話以前に古本屋さんというのはお店以外での本の売り買いを結構やっていて、こちらの方のアガリが案外と大きいというのも想定外の裏事情でした。それから古本屋業界で知られた超高額本は?と訊ねたら、答えは北村透谷の「楚囚の詩」でした。またこれも意外な話で以前は安かった普通の本でも何かのキッカケで突如として値段が数倍になることがあるとか、まだまだ不思議な話はありましたが、とにかく古本屋さんに限らずその世界の人しか知り得ない事情を垣間見るのは一つの冒険みたいなものです。こうゆうことに興味をもつようになったのは、おそらく高校のころからだと思います。たぶん駅で話しかけてきた酔っ払いのオジサンの話に引き込まれてしまったのが最初です。オジサン
左官のような職能をもっているひとでしたが、駅のホームを指差して「いいか、普通の人間は気が付かないけどなあ、ホームはまっ平らじゃねえんだよお。いいか、水が流れるように線路に近いとこは少し低く作ってあるんだ!」。驚嘆でした。普通の目には見えない部分に誰も知らない工夫や狙いや配慮が密かに仕掛けられている!実はこの平凡な日常世界は、SFの「火星年代記」みたいに別の超感覚的世界と二重映しになっている!それは一つの大発見といえるものでした。こんな世界観に触れることができたのは、むしろバカも盛りの高校生の特権だという気がします。その後になって水道屋さんから聞いた水道管の雑音の秘密、タクシードライバーの教えてくれた確実にお客を捕まえる知恵、トラック運転手だけが知る美味い店の発見法、天気の変化を的確に予測する山男の直感、そして主婦の勘も?…、目の前の常識や憶測やあまり前といったベールの向こうに広がる秘伝の世界、それは誰の前にも開かれているようです。そこに出入りする人たちとの対話から、実は誰もが自分しかできない経験や自分しか知り得ない知恵を蓄積しているということが判りました。多くの場合その知恵の凄さは誰にも見えなかったりします。それで人は残念ながら自分の正体を知らないまま平凡さからの脱却を試みたり、退屈な毎日を不機嫌に送ってしまうことにもなります。それでもこの世は、人それぞれの秘伝に満ちた麗しの「華蔵世界」だったのです。ところで小生の秘伝は…。