あの人に逢えたら:小田原市板橋

昨夜の関東は物凄い雷鳴でした。昨日8月23日は関西では地蔵盆です。この地蔵盆は一種の子供の祭りで、京都府北部の丹後地方あたりでは路傍に立つ石の地蔵さんは極彩色にデコレートされ、地蔵さんの近くの細道は子供たちによって封鎖されます。子供たちはこうして通行人からお賽銭を集めます。?十年前のこと、丹後半島から福井あたりを旅行したとき舞鶴市内で地蔵盆を目撃しました。そのとき仲良くなった子供たちも今は間違いなく関西弁の似合うオッサン・オバチャンの仲間入りを果たしているでしょう。あの聡明な子供たち、どんな大人になっているのでしょう。ちょっと再会したい気分です。関東では特に地蔵盆などという地域ぐるみの行事はありませんが、この日は関東でもやはり地蔵さまの縁日です。各地で様々な行事が行われます。神奈川県小田原市にある板橋地蔵尊には不思議な言い伝えがあります。ここの地蔵さまは路傍の石仏ではなく立派なお堂に奉安されているんですが、なんと8月23日の縁日にここにお参りすると長い参道のどこかで最近死別した人のソックリさんを目撃できるというのです。つまりこの日、ここは「あの人に会いたい」が実現で
きる場所になるのです。昔から小田原市周辺では家族の誰かが亡くなると、お盆を迎えたあとには、皆さんこの板橋地蔵にお参りに出掛けることになっています。このような言い伝え、少し切なくてロマンチックな感じがしますが、実は特に小田原市周辺に限定されたものではないようです。同じ神奈川県内でも少し東にズレるとそれは伊勢原市の大山となります。逆に少し西の静岡県東部にズレると、熱海近くの伊豆山(いずさん)神社になります。人々の切ない願いを叶えてくれる場所は各地に用意されているという話ですが、この現象も野暮な謎解きをすれば、参拝客が多いほどソックリさんを目撃する確率も上がるし、心理学でいう心理的な構え、つまり一種の期待感によって似ている人に目が行きやすい状態ができるためだとかの説明が可能です。しかし同じ人混みなら東京や大阪でも類似の経験が語られそうですが、それでは切なさというものが薄まります。だいたい今どき東京あたりに現れる霊なんて不気味なだけのヤツばかりでロマンチックも何もありません。さて小生も昨日、板橋の地蔵さんに出掛けて参りました。肉親を亡くした人たちが近郷近在から集まっ
ている場所、そんな特殊な空間は思いの外明るい場所でした。露店が立ち並ぶ参道の行き帰り、誰かを目撃するかと期待しましたが、元々道で知り合いとすれ違っても気づかない人間なせいもあり、残念ながら誰にも逢えませんでした。ただし帰りに小田原の街で昔々少しだけ好きになった人にソックリな後ろ姿をチラリと見かけました。ご本人だったのでしょうか。ご本人、今もピンピンしているはずです。8月23日、小田原の街は微妙に通常とは違う空気に包まれていました。