ミイラ・ロード

ホトトギス鳴いてくれたら倍返し!/ミイラなら鳴くまで待てるホトトギス!/全米を泣かせてみるかホトトギス!   この前、宴会でミイラの話が出ました。そこで不覚にもミイラについてペラペラしゃべってしまいました。あんまり気持ち悪い話になりそうたったんで、詳しくはWebでということにしました。さて、ミイラといえば“ミイラ取りがミイラになる”という言葉は少し奇妙な感じを人に与えます。ミイラを取りにいく??普通に考えてもお墓の盗掘といえば目当ては副葬品、むしろ埋葬された遺体なんて金にもならないし、ただ邪魔なだけです。例えば春秋戦国時代の中国では一部の貧しい儒者が貴人の墓を暴いて遺体の口中から貴重な宝玉を常習的に盗み出していたと言われます。またエジプトでも敵のミイラを破壊するために墓を暴くことはあっても普通の盗掘者がミイラを破壊するのは副葬品の宝石を盗むためだったようです。ところがヨーロッパでは13世紀あたりからミイラは薬として利用されるようになり、ある種のミイラ・ブームが巻き起こりました。その結果、エジプトではミイラ輸出が一大成長産業とな
り、古代の墓がガンガン暴かれたそうです
。ミイラ御殿も建ったりして業者も増えてミイラも品薄になって、ついには
貧民の墓からも原料が調達されるまでになった
とのことです。ミイラにもアウトレット品が出てきたという景色です。その後、薬としてのミイラは遠い中国でも知られるほどになり、漢方医学の世界では木乃伊と呼ばれることになりました。そう、ミイラは薬!自分がミイラになる危険も恐れずにミイラ取りが探し求めていたのは木乃伊と呼ばれる薬だったというワケです。この木乃伊は江戸時代になってから漢方薬として日本にも紹介され、実際に輸入もされたとのことでした。そのミイラ、話によると全身丸々輸入されて、今でも国立科学博物館に保管されているとか。こんなの誰か飲んだんでしょう。こんなん飲まされるくらいなら小生は痛かろうと苦しかろうと死ぬ気で逆仮病になります。実はミイラの主な有効成分は包帯を固めるために使用された天然アスファルトや遺体の防腐剤として使われた“没薬”と呼ばれる天然樹脂の方だと考えられますが、実際の効き目は止血、止痛、殺菌などに止まるようです。でも昔の人は遺体それ自体に神秘の効果があると固く信じていたらしく、特に当時のヨーロッパでは話にドンドン尾ひれが付いて、物凄い神秘の効能をもつ万能薬みたいに見られていて、主に大金持ちたちがこの気持ち
悪〜い薬を競うように飲
んでいたというのです。まあ、こんな感じで色々あってミイラは13世紀から17世紀くらいにかけてヨーロッパで大流行して、中国を通って日本までやってきました。しかし不思議なのはその呼び名です。だいたいミイラという綴りが怪しくも不気味です。別にミーラでもいいのにミイラというのは妙です。しかも当時の漢方での呼び名は木乃伊、当時の中国語の発音ではムーナイイー、日本での呼び名でも“ぼくだいい”で、とてもミイラとは繋がりません。おそらく木乃伊はヨーロッパ語のムミアもしくはムミーに由来する言葉の音写と思われます。このムミアは元々アラビア語のムンミーヤがモトになっているといいます。さて一方、残されたミイラですが、色んな国語辞典を調べたらミイラの語源はポルトガル語のMIRRHAだということが判りました。しかしミイラはポルトガル語でもムミアです。実はミルラの意味はミイラに塗ってある“没薬”のことでした。そうです。木乃伊の有効成分の一つになっている没薬!日本に初めて西洋医学が伝わったのは安土桃山時代で、それをもたらしたのは他ならぬポルトガル人です。すると信長が豹柄のダボダホズボンを穿いていたこ
ろにミイラに付いての情報や知識が日本に入っていた可能性が考えられます。ミイラがムミアでなくミルラという名前で知られていたとすると、すでに薬としてミイラが語られていたことも想像できます。ついでながらミイラの語源ともなった没薬、聖書のマテオ福音書の記載ではイエス・キリストの誕生を予知したバビロニアのマキたちが黄金や乳香とともにこの没薬を聖母マリアさまに捧げたと言われています。また痛いことだらけの少林寺に伝わる打ち身、捻挫、骨折に効く秘薬にもこの没薬が使われています。とにかく没薬はミイラ抜きで人気の薬なことが解るでしょう。そう、思い出しましたが、アラビア語のムンミーヤの語源、それはペルシャの山岳部でしか採れないムミアという天然アスファルトなのだそうです。そうなんです。あのミイラをグルグル巻いた、醤油で煮しめたような色の包帯に塗られたアスファルトのことだったんです。ということで木乃伊にしろ、ミイラにしろ両方とも薬品の材料の名前だったということでした。あなたはミイラを飲めますか?