絵にも描けない没個性

競ってもどいつも同じホトトギス!/文学で得をしてますホトトギス!/


またまた絵に描いたような事件です。街で出会ったシングルマザーのところに転がり込んだ交際相手の男が躾(しつけ)と称して子供をイタぶり殺した事件です。こんなに可哀想な子供は、せめて天国で幸せに暮らしてほしいです。こうゆう事件のニュースを聞くとその周辺の景色が見えてきます。男のブルゾンの下からダラリとハミ出たカッターシャツの裾、重低音でヒップホップを流したままアイドリング状態の黒いディーゼル車、床に積み上げられたゲームソフトの山、ココアちゃんとかライムちゃんとかマリンちゃんとか恐ろしく難しい漢字の名前の子供たち…自分で考えることが大嫌いなヤカラというのは、こんな悲惨な事件でも流行を追うんでしょうか!なんでまあ全てにおいてコピーしたように没個性的なんでしょう。やはり無教養のなせるワザなんでしょうか。しかし、そうとも言えません。こちらは悲惨な話というよりノンキな話ですが、教養の吹きだまりみたいな世界にだって絵に描いたみたいな没個性な景色が展開していそうです。例えば絵に描いたような定番のその場所は、多くのばあい都心から高速で一時間前後、高速を降りてから約10分ほど走った
里山の中腹にあります。山を這うように続く農道を曲がりくねりながら上ってゆくと、やがて古民家風の建物が目に入ります。やや薄暗い店内には白木造りのテーブルが三つほど、店の奥では青い作務衣姿の店主が蕎麦を打っています。この店のご店主、実は誰もが知る有名大学を出ていて、数年前まで都内の一流企業の管理職だった!というのが相場です。店で出来るものは多くて3種類くらい、注文してからも長いこと待たされる、出てくる蕎麦も異常に少ない。客筋は決まっていて、こうゆう店には労働人民も来ないし、大企業の経営者なんかも来ません。ここに来るのは主に文化、芸術関係がお好きなインテリ層の人たちということになっています。このお客、ナゼか店主と妙に親しげにしています。そして店内には登山の話や舞台芸術の話や展覧会の話なんかが飛び交うのです。こうゆう絵に描いたような店、だいたい極限の辺境にはありません。あるのは基本的に地域の中核都市付近に限られます。さて、この「こだわり」の蕎麦屋さんのある山を降りてから車で5分ほど走ると、たいてい小さな小さな町に出ます。町の人口は数千人から一万人くらい、特に目立った観光スポッ
トもないこの町の玄関口になっている駅の前には小さいながらもケーキ屋もあるし美容院もあります。こんな静かな町にも不思議に都会から来た人が開いたオシャレなパン屋さんがあったりします。ここも山の中腹の蕎麦屋さんと同じように華々しい経歴をもつ極めてセレブな人のお店です。このお店の前にはパンが焼き上がる予定時間が出てい
たり、パンの作り方が詳しく詳しく書いてあったりします。そして、これまたナゼか物凄く早くパンが売り切れるんです。ここんなお店にも固定した客筋というものがあるんです。もしあなたが当地の中核都市のカルチャーセンターや教養講座に足を運ばれたことがあるなら、そこで出会った誰かにこのお店で再会できるでしょう。あるいは都内で開かれていた読書会なんかのメンバーと出くわすこともあり得るはずです。どうでしょう、こうゆう絵に描いたような景色、見たことあるでしょ!実は小生、こうゆう店が物凄く苦手なんであります。いや、正直に言うと、こうゆう店が大嫌いなんです。でも、色々思いを巡らすと、お店が嫌いというのではないような気がしてきました。そう、作務衣の店主も詳しい解説の看板も多様なお店の演出の一つですから特に気に障ることもないのです。小生が本気で大嫌いなのは、そうゆうお店の嫌な客筋だったんです。なんたって連中、高級そうな話題を振り回しているように見えますが、そのくせ、実は仲間うちでコソコソ固まるばかりで世間も了見も狭い人間ばかりなんです。ですから里山蕎麦屋だって他にお客がいない時間なら是非とも出
向いて本格的な味を自分の乗りでタンノーしたいものなんです。しかし、こうゆう店、決まって営業時間が異様に短いため、いつ出向いても例のタイプのお客で混雑しているんです。まあ、そうゆうワケで一生行かないことになる公算の方が高いでしょう。そして外でマイウ〜なもんでも食いたくなったら、店内にテレビがあって、ビールの黄色いコンテナが積んであって、椅子の背もたれに穴なんか空いている、そんな平和なお店で和むのです。