異常な異常体験

関わると面倒になるホトトギス! 
どうせ世間はビョーキの人間だらけだ。常々そう思っていましたが、昨日はホンモノのビョーキの人のお相手をすることになりました。ある集まりに出るべく宮殿の近くの住宅地を歩いていたら、一人の国産金髪ねえちゃんが上半身裸の姿で何やら怒鳴りながら襲いかかってきたのです。さてホンモノのビョーキの人と話すための心得やらワザやら作法やらを全く知らない身ですから当方の出方も何やらアヤフヤになります。こうゆう特殊な状況に直面すると人のアタマは自動的に現場から逃げ出すための作戦で占領されてしまうのが人情、しかしナゼか貧乳丸出しで絶叫しているねえちゃんの言うことにマジメな態度で耳を傾けてみたくなりました。ねえちゃんは「早く取りに来い!」と何度も叫んでいるような。その勢いで近くに歩みよってきて掴みかかるわユルユルのローキックで蹴ってくるわ。それはさておき「何を取りに?」と訊くと「タマだよ!タマ取りにきたんだろーぁ、お前ーぁ!」と答えます。この場合の「タマ」とは明らかに爆笑問題の田中が失った例のタマのことではない。なにしろ半裸ねえちゃんには取るようなタマがなさそうです。あるいはタマを取りたいオネエ
なのかも知れませんが、オネエ説は現実的ではなさそうなんで却下です。やはり可能性が高いのはヤクザ用語の「タマ」、すなわち命のことです。小生とにかく単なる通りすがりの人間で「タマ」を取りに来たのではないことを伝えました。そして「そんなに怒って何かイヤなことでも続いたのんかいな」と言うと「生きてる意味がないんだよ」と急に小声になって答えたのでした。ああ、この人は極めて異常な行動をとっているが決して他人に攻撃を加える目的などもっていないと瞬時に判りました。キケンなパンチやキックを繰り出さないのも同じ理由で理解できます。「生きてる意味がない」といった直後からは「タマを取る」なんて物騒な話はなくなりましたが引き続き警察に通報して自分を捕まえさせろなどと色んなことを絶叫したのです。ただし発言は一環して自己処罰的な内容です。服を脱いで歩くのは覚醒剤の作用とも考えられますが、どうやら幻覚を伴う被害妄想もないようだしホントは時間をかけて話を聞こうという気になっていたんですがケツカッチンには勝てず泣く泣くその場を後にしました。しかし常識的に考えてみれば元々時間がない
のに明らかに異常な人間なんかの相手をす
るというのは愚かしい話です。それなのにナゼか足を止めたくなったのは、絶叫する半裸ねえちゃんとの対話のあいだ妙な和み感みたいなものがあったためなのでした。ホントに妙なんですが何というか普通の人の世界からは完全に姿を消してしまった切実で涙ぐましい訴えに包まれたといった心地よい感覚があったんです。ねえちゃんは去って行く小生を絶叫しながら追いかけてきましたが、曲がり角手前あたりで追随をやめ離れてゆきました。それにしても悪い感じの余韻が全く残っていないのが奇妙でなりません。まあ世間といえば無意味な攻撃ばかりを他人に仕掛けたり自分の言いたいことだけ言い募ったりして暮らしているヤツばかり、そんな普通の人々よりは真っ直ぐな怒りで襲いかかってくる半裸ねえちゃんの方が遥かにマシだとも感じます。だからといって明日あたり再び出会したらイヤなんですが、一度で終わりなら昨日の出来事はべラボーに爽やかな異常体験と言えるに違いありません。ところで気づいたことが一つ!小生、声を張って話す女が好みだったんですねぇ。