塚原卜傳の用心

塚原卜傳が弟子と二人で田舎の道を歩いていると人の気配に驚いた馬が急に前足を跳ね上げた。そこを素早く避けた弟子の姿を見た村人は弟子の技量を称賛したが卜傳は特に誉めるでもなかった。不審に感じた村人たちは別の日に同じ道を歩く卜傳の様子を窺っていたが卜傳は馬に近づく遥か前に歩くコースを変え馬のいない側に寄って歩いていった。跡で村人たちが先ほどの行動のココロを確かめると卜傳の答え:だって馬なんて元々急に足を跳ね上げるもんなんだから初めから近くに寄らないに限るぢゃん!。これは戦前の修身書に載っていた話なんで史実か否かは確言できないが確かに塚原卜傳の行動様式は他の多くの剣豪たちとは根本的に違っている。剣豪と言えば普通は心身を鍛えて獲得した超人的な能力を頼みに勝負に臨むとかろだが卜傳が超人的なのは並外れて精密な観察眼と科学的な判断と冷静な行動だ。卜傳流では凄い腕より普通の用心ということか。でも心掛けだけぢゃ卜傳の境地には入れないか。